まだまだトライアンドエラーの繰り返し。それでも一歩ずつ、理想に近づいている


EM laboの代表であり、日本でいち早く「不動産エージェント」としての活動をスタートさせた先駆者。現在は、エージェントの働き方改革や日本の不動産業界の発展などを目指し、幅広く活動しています。

「自分にしかできないことをしたい」という想いから、不動産エージェントに

ーどうして不動産業界に?

榎本(以下、同):不動産業との出会いやこれまでのことはこちらの記事で書かせていただいているのですが、いわゆる「不動産エージェント」として主に仲介をさせていただいているのは、自分にしかできないことをしたいという想いからです。

不動産の仕入れや販売、管理もとても大切な仕事ですが、オーストラリアの大学を出て、ニューヨークで働き、これまで不動産会社に就職することなく、独自の方法で不動産の取り引きをする方々をサポートしてきた「私」にしかできないことを改めて考えてみたら、やはりまずは英語力を活かすこと。そして、女性がもっと働きやすい業界にすること。そしてなにより、不動産取り引きの透明性を高めることだと気づいたんです。

思い立ったらすぐ行動するたちなので、外国の方でも来ていただきやすい港区麻布台の今の場所に事務所を移転し、それまで業務の大半を占めていた管理物件をすべて手放し、1から不動産エージェントとしてスタートしました。

他社には見られない「チーム制」を導入している理由

ー「チーム制」を導入している理由は?

これまでの弊社の特徴は、1人のエージェントが最初から最後まで責任を持って仲介をすることでした。これが大きな強みであり、自分にしかできないことだと思っていたのですが、1から10まですべて1人でやるとなると仲介させていただける数に限界があります。

しかも、どの業務も全力投球しなければなりませんので、四六時中、気を張っていなければならず、負担も非常に大きくなります。これでは、誰にも「不動産エージェント」という働き方をおすすめできないと感じるようになりました。

私だけが取り引きの透明性を高めても、私だけが自分にしかできないことをやっても、日本の不動産業界は変わりません。日本の不動産業界を変えていくには、一定の再現性の高さが必要です。現在の日本の制度では、不動産エージェントがやるべきことが非常に多く、1から10まですべて1人でやることは難しいと痛感しました。

チーム制の導入には、他にもきっかけがあります。それは、とある外国人のお客様に「そんなことあなたに頼んでいない」とお叱りを受けたことです。当時は物件の現地調査や役所調査も私がこなしていたので、調査中にいただいたご連絡に気づくことができなかったんです。何度もご連絡をいただいていたので申し訳なかったのですが、私はまさにこちらのお客様のために物件調査をしていたので「あなたの購入予定の物件調査をしているんです!」と電話で主張したところ、「榎本さんは僕のこだわりを知っているからこそ、新居に合う家具や家のことで相談したかった」と言われました。ここでハッと気付いたんです。お客様が求めること以外にリソースを割かざるを得ない、今の状況に課題があるのだと。


「自分にしかできないことをしたい」という理由で不動産エージェントになったわけですが、当時の「自分にしかできないこと」はあくまで自分本位だったんですよね。ですから、チーム制を導入したのは「お客様が求める私にしかできないこと」をするための体制を整えるためです。

ー「チーム制」について改めて教えてください。

チーム制は「分業」とは異なります。“縦”で不動産仲介を分けるとなると、「案内」「契約書・重要事項説明書の作成」「決済」などの工程を1人でこなさなければなりませんが、弊社では常にお客様のご要望や進捗状況をチームで共有しています。

EM laboのチーム制は“横”で業務を分けるイメージ。常に複数人が状況を把握していると、たとえば「母」や「妻」「子」としての仕事というか役割を両立しながら不動産エージェントとしての業務をこなすことができるんですよね。

もちろん窓口となるメインのエージェントはいますが、その裏で複数の信頼できるスタッフが取り引きを見守っていて、実際に作業もしているというのが弊社のチーム制です。

……とはいっても、前例がないことをしているので、まだまだトライアンドエラーの繰り返しです。弊社EM laboの社名にもあるように、常に“研究”しながら、不動産を取り引きする人の幸せと仲介する私たちの効率化も考えながら、どんな案件でも最高のパフォーマンスができるようブラッシュアップしていきたいですね。

まだまだ遠いけれど、見えてきた「理想」

ー“研究”の最中ということですが、理想には近づいてきましたか?

まだまだ程遠いです(笑) でも、私の「理想像」はすでに形になっています。あとは、これをどう実現していくか。少し前まで、今世では日本の不動産業界を良くしていくことはできないと思っていたんです。私1人にできることなんて限られているので。

でも今こうしてチーム制を導入して、1人でやっていたことも仲間と協業しながらやらせていただいています。そしてこれからは、エージェントとしての活動を続けながら「教育」にも力を入れたいと思っていて、2024年5月から念願の同業者向けのプロ育成講座を始めることになりました。

「ライバルとなる同業者を教育してどうするの」と言われることもあるのですが、不動産仲介って“共助”なんですよ。私たちだけ透明性が高くても、相手の仲介会社さんがそうでなければ取り引きの透明性は保たれません。自分だけ、自分の会社だけでは日本の今の状況は変えられなくても、私たちに共感して想いを繋いでくれる仲間がいれば、それもできるかもしれない。つまり「教える」ということに可能性というか、希望を見出したんです。

私がやりたいことは、真っ当なことをやっている人が真っ当に評価されるという当たり前の仕組みを構築することです。共感していただける方に一緒に形にしてもらえれば、私1人でやっていくよりも何倍も、何十倍も、実現が早まると考えています。私がこれまで10年以上にわたって培ってきた経験やノウハウを惜しみなく伝えていき、今世で理想を実現したいと思います。

ー仲介業における、これからの展望は?

不動産を売却される方からのご依頼を増やしていきたいと考えています。というのも、やはり売る側の透明性が高ければ、取り引き自体の透明性も高まるからです。囲い込みがあるのは、現状はまだしょうがないこと。大手さんにはネームバリューでは叶わないですが、最も早く、最も高額で売れるのはEM laboだと確信しているので、そこをどうお伝えしていけるかだと思っています。

売主様に信頼していただくには、やはり「査定」が肝です。査定額はその金額で売れることが保証されているわけではないので、高ければいいわけではありません。そのことをご理解いただくとともに、弊社の査定に信憑性を感じていただくことができるよう、時間をかけてお伝えさせていただくようにしています。査定額だけでなく、売却の「戦略」も査定の段階からご提案しています。「どう売るか」「誰に売るか」によって不動産の価格も売れるスピードも大きく変わってきます。こうしたことを、売主様のご意向やご状況を踏まえて、いかに最適なご提案できるかどうかが不動産エージェントの腕の見せ所です。

不動産の売買は人と人の間で行われるものですが、不動産の仲介についても人が依頼し、人が行うものです。不動産は高額な資産ですから、その売買、仲介となれば、そこには「信頼」が不可欠です。不動産取り引きは人生をも左右するものであり、希望や期待ばかりでなく、ときにネガティブな背景もあるものです。

私たちエージェントは、こういった部分に目を向け、寄り添い、目の前のお客様の幸せを願いながら仲介しています。こうした取り組みが広がっていくことが理想ですが、まずはやはり目の前のお客様の幸せを追求してこそ。ひとつ一つの取り引きを大切に、これからもお力添えさせていただきたいと思っています。